リシケシから夜行電車に乗り最寄り駅のパタンコットまで行ってそこからバスでダラムシャーラーに到着する予定だったのですが、チケットを買ったリシケシの旅行代理店でパタンコットが終点かと聞くと自信満々でそうだと言っていたので安心して寝ていたら、到着予定時刻を2時間過ぎても電車が停まらず一応近くの乗客に聞いてみたらもう過ぎちゃったよと言われました。インド人の自信満々を過信してはいけません、絶対に。
よくよく冷静に考えてみると、『自信無さげなインド人』なんて、『清純派セクシー女優』みたいな、なんだか釈然としない非現実的な存在ですからね。全く油断しました。
さて戻る電車もないですし、仕方がないので周りの人に聞きながらローカルバスでダラムシャーラーに向かいました。結局バスを4回乗り継いで、中にはホントにこんなとこで降ろされて大丈夫かなあと若干疑いを持ったこともありましたが、それほど迷ったり、長時間乗り継ぎ待ちをすることもなく半日遅れでなんとかたどり着きました。不愛想で若干デューク東郷のような威圧感のあるおじさん(軍人だと聞いて納得)も、私たちがダラムシャーラー言っているのを聞いて、ニコリともせず俺もそこへ行くから降りるとき教えてやると言ってくれたりして皆さんとても親切で大変有り難かったです。
ダラムシャーラーの中でも旅行者が集まるのはダライ・ラマ法王公邸もあるマクロードガンジというところです。
ここはインドでも結構北の方で標高も高いので(1700m程)寒い寒いとはさんざん聞いていましたが、着いてみるとまあ阿蘇の方が全然寒いですね。なんだたいしたことねーな、という。町もこじんまりしてメインストリートはいろんなお店があり、道行く人もインド人とは顔の造りが違うチベタンの人々も多く見かけます。空気もいい気がするし、宿からの景色もいいし、私たちはすぐにここが気に入りました。そして3週間以上ぶり、インド入国以来全く口にしていなかった肉を食べました。バックトゥザノンベジワールドです。
モモという、いわゆる蒸し餃子を、メインスクウェアのすぐ近くのモモしかない庶民派専門店で早速食べたのですが、以前、といってもこれも20年近く前、ネパールで何度か食べたことのあるモモの味の記憶をだいぶ上回った美味しさで感激しました。久しぶりの肉ということもあるのでしょうが、それよりもネパールではその当時、味のシルクロード、通称『味シル』とか、かなりまともな日本食レストランもありましたし(今もあるのかな?)、タイの後だったし、インドの前だったしで、舌がまだ高飛車な状態というか、その有難みが理解できない程ナイーヴだったことが大きいんじゃないかと思います。
今回はインドでしばらく小突き回された後なのでその味の有難さもよくわかります。アフリカとかアマゾンとかそんなところで長く暮らしている日本人の方はもっともっと切実に、そのような日本でなくともせめてインド手前のアジアの味に飢えるんじゃないでしょうか。
ひとつまた思い出話なんですが、以前インドで2ヵ月目くらい、海外に出てからは半年くらいの時、インド最南端の町のある宿の部屋で私を入れて日本人男三人でしゃべっていました。一人は冬休みを使った学生さんの旅行者で、もうひとりは私と同じく長期旅行の方でした。そのうち自然と食べ物の話になって、その学生さんが粉末のインスタント味噌汁を持っていることが発覚しました。私たちは“ピクッ”と反応しましたが、意地きたないのはみっともないので「へー、そうなんだ。準備がいいね。ハハハ…。」などと至って何事もないのように紳士的にふるまっていたつもりでした。しかしその心優しい学生さんは、何かを察してくれたのでしょう、なんと
「これ、いま3人で飲みませんか?」と申し出てくれました。
「これ、いま3人で飲みませんか?」と申し出てくれました。
その貴重さを理解している私達は、「いや、いいですよ。」などと確か少なくとも一回はご遠慮申し上げたと記憶してますが、彼は「いや、いいですよ。飲みましょう。」と言い張ってくださいました。
「い…、いいんですか?」
「い…、いいんですか?」
私達の声は震えていたと思います。
その当時私が持っていたカップとコイルヒーターでお湯を沸かし、その神々しい粉末を投入します。そのカップを囲み正三角形になって座り少し待ちます。部屋にはティーセレモニーよりも厳粛な空気が充満していました。
各自お先にどうぞと遠慮しながらひとくち目を口にします。「ズズズッ…、はぁぁぁ…。」
ひと口、啜っては隣に回します。「ズズズッ…、はぁぁぁ…。」またひと口、啜っては隣に回します。「ズズズッ…、はぁぁぁ…。」
…。
何週目だったか、「最後…、いいっすか。」と誰かが言うまで、とにかく三人無言でした。
母親の味噌汁でもなく、奥さんの味噌汁でもなく、これが私の今までの人生でナンバーワンの味噌汁の思い出です。インスタントですけど。
さて、ネットにはいくつかのここマクロードガンジに滞在した日本人旅行者のブログがあり、レストラン情報をかなり事細かく書いてくれていたので、そういった記事をかなりコーフンしながら丹念に読み込みました。ここのレストラン行かなきゃ、これも食べなきゃあれも食べなきゃ、とワクワクが止まりません。インドのカレー的な料理が必ずしも不味いわけではないですけど、それとは何かが決定的に違う、日本人の口にも合う料理がたくさんありそうです。しかもここでは評判のすこぶるいい、お値打ちな日本食レストランもあり、戦略的撤退というか勇気ある妥協というか(←そんな大層なものではない)、要するに「まあいいじゃないか、折角なので食べちまおう!」と、とにかく日本食も食べる気満々の腹づもりでした。
しかしながら!
〈続く〉
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